薊の森

備忘録

私が統合失調症と診断されるまで

2013年の夏、私は精神科の初診で統合失調症と診断された。地域の保健所に電話相談してから、受診までの道程は長かった。家族が精神疾患に理解がなかったからだ。保健所の職員さん(Aさん)の尽力のおかげで私は家族の理解を得て、長年のひきこもり生活から一歩を踏みだすことが出来たのだ。

勤務時間の延長、職務の責任の増加、それらで精神状態が限界になってパート勤めをしていた仕事を辞め、求職中だった私が本格的にメンタルの異常を感じ始めたのは愛犬の死がきっかけだ。最低限の営みである食事や入浴が出来ない、部屋は荒れ放題、隣近所から監視されている気がしてカーテンを開けられない、外に出れば悪口が聞こえるなど、明らかに私の精神状態は悪化していった。
それでも長時間に及ぶ睡眠のほかはネットに依存して、現実逃避にサイトを運営したり小説を書いたり、Twitterに入り浸ったり、録画したドラマを深夜に見たり、好きなことだけはやれていた。家族から見れば随分勝手な症状だと思う。

保健所の電話相談でAさんと出会ったのは、2013年の始めだったと記憶している。電話が苦手な私にAさんは職場のメルアドを教え、公共交通機関を利用出来ないと相談すれば近所まで話を聞きに来てくれたり、かなり親身になってくれた。現在通所している作業所(地域支援センター)の活動に私を連れて行き、Aさん以外の支援者がいることも教えてくれた。

初めての精神科受診や自立支援医療の申請もAさんに付き添ってもらい、数回通院した後、突然Aさんは異動が決まって、相談に乗ってもらうことが出来なくなってしまった。私は作業所の職員さんを少しずつ頼りにするようになっていたから、具体的にとても困るようなことはなかったが、それでもやっぱり心細さがあった。

通院治療で症状が多少治まり、荒れ放題で照明も壊れたままだった私の部屋の片付けを手伝ってくれたのもAさんだ。使っていないという照明器具を持ってきてくれて、数ヶ月ぶりに部屋に明かりが灯った時は泣いてしまった。
大量のゴミ袋に詰めた不用品、古い雑誌などを見て、家族も部屋の片付けに協力的になってくれた。Aさんがいなければ全て実現しなかったことだ。

恐らくもう会うことはかなわないだろうが、Aさんにはほんとうに感謝している。私にとって命の恩人と言ってもいい。
もしいま未治療でメンタルに異常を感じているひとがいれば、地域の保健所のメンタルヘルス相談に電話してみて欲しいと思う。職員さんとの相性もあるかもしれないが、切実な訴えはきっと届くだろう。

一本の電話で救われることがある。私は誰にも人生を諦めて欲しくない。この文章が一歩を踏みだす手助けになればいいと願っている。

 

(2018/07/30)