薊の森

備忘録

十年来の親友と訣別した話

私にはかつて中学時代からの親友がいた。高校が離れてしまったため、一時期は年賀状くらいの付き合いしかしていなかったが、18、19歳の頃に熱烈にはまっていたバンドをおすすめしようと私から連絡を取り、それをきっかけに再び頻繁に遊ぶようになったのだった。
私は高校三年生で中退して大検を取得し、一年遅れで短大に入学してバイトを始め、彼女は高校卒業後は中小企業に就職した。遊ぶといってももっぱら私が彼女の実家に入り浸り、いま思い返せば同居のご家族にかなり迷惑をかけていたと思う。私は家族と折り合いが悪かったから、気の置けない彼女の部屋は居心地がよかったのだ。
おすすめしたバンドを彼女もとても気に入って、私たちは東京、大阪、名古屋で行われたライブへも一緒に行った。そのツアーは解散ツアーになってしまったが、最後のライブも見届けて元メンバーの新たな活動開始まで駈けつけ、特に音楽性を気に入った元メンバーのバンドを二人で応援していた。当時からメンタル面に難を抱えていた私は就職活動をせず、短大卒業後は週5日、5時間のパートをしながら実家暮らしで好きなことにのめりこんでいた。
それと同時期、私はバラエティ番組でジャニーズ事務所のタレントを好きになり、彼女を誘って初めてアイドルのコンサートというものに行った。私の影響があったかどうか定かではないが、彼女も別のグループやJr.を好きになり、好きだったバンドのライブからは足が遠のき、私たちはジャニーズファンとして相変わらず一緒に遊んでいた。
彼女が私より一足先にネット環境を手に入れて、ジャニーズファンの交流サイトでチャットをしたり知り合いを作り始めたのはその頃だ。私は当時あった文字電話というメール機能のみを売りにしたPHSを使用していて、同じグループが好きなメル友がいたが、PCのネット環境はなく、彼女が知らない誰かとどこか遠いところに行ってしまったように感じていた。幼稚なやきもちだったと思う。
「××の舞台、どうする?何日にする?」
あたりまえの顔でそう聞いてきた彼女に、私は初めて行かないと告げた。彼女にはもう知り合いがいるし、行きたかったらそのひとたちと一緒に行くだろう。そう思って初めて誘いを断った。実際問題、社会人の彼女とパートの私ではコンサートや舞台に注ぎこめる金額が違って、疲れも感じていたのだと思う。このままずるずると遊び続けていたらよくないという危機感もあった。24、25歳の頃の話だ。
誘いを断ったせいで親友と訣別することになったのか。それは少し違って私が悪かった。私は「ネットでチケットを探してみる」というメル友に誘われて、親友に行かないと告げた舞台を観に行ったのだ。とうぜんのことながら彼女は私を責めた。その後に連番で彼女とチケットを取ったコンサートがあったが、お互い別々に行動して隣り合わせでも一言も口を利かないままだった。彼女とはもう20年ほど会っていない。
それからの私はジャニーズから平成仮面ライダーに興味が移り、30歳でいわゆる現場からは卒業した。パートで働いていた職場が勤務時間を延長したり、職務の責任が増したり、メンタル面への負担が大きくなって仕事も辞めた。彼女は精神疾患に理解がないひとだったから、傍にいればきっと私自身がつらい思いをしたことだろう。
いまの私は俳優を応援していて、地方公演がある場合もあるが、舞台へは全く観に行っていない。金銭的にも体調的にもせいぜい映画を観に行くくらいだ。彼女はいま、どうしているだろうとたまに思うことがある。芸能人を好きになって追いかけたりしているのだろうか。この文章がもし届くことがあれば謝罪したいと思う。

 

(2018/07/28)